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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)335号 判決

事実及び理由

一  請求の原因1ないし3の事実については当事者間に争いがない。

二  そこで、審決を取消すべき事由の存否について判断する。

1  原告は、まず、審決が本件考案における洗浄水噴出アームと濾材層表面との位置関係について格別の規定もないとしたのは、誤りである旨主張する。

本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載によれば、本件考案は、「アンスラサイト層と砂層の如き二層の濾材層若しくはそれ以上の複数層の濾材層を配備した」濾過槽に適用するための瀘層表面洗浄装置において、「多段に洗浄水噴出アーム6、7を配備し、最上層10より下方の各瀘材層11に対しても回転型の洗浄水噴出アーム7により所要の洗浄が行われるようになした」構成としたこと、すなわち、洗浄水噴出アームは、各瀘材層の表面部分に多段に設置されることが認められ、これによつて「回転アームから噴射する洗浄水で各瀘材層表面付近を洗浄するようにしたことにより、各濾材層表面におけるマツドボールの発生を同時に抑制または破壊することができ複層瀘過池の完全表面洗浄を可能にし」た(成立に争いのない甲第二号証―本件考案の実用新案公報三欄二三行ないし四欄二行)ものと理解される。したがつて、審決が、本件考案の明細書をみても、洗浄水噴出アームの位置と瀘材層表面の位置関係について格別の規定がないとしたのは、原告主張のとおり誤りというべきである。

2  次に、原告は、審決が、表面洗浄が逆洗と同時に行われるものであることを勘案すると、複層濾層の洗浄においても各濾層の濾材自体は下方からの逆洗水と、表面洗浄水とによつて攪拌混和され濾材が懸濁した状態となり、各濾材は混然一体となつて濾過池等の中に存在しているものとした点の誤りを主張する。

本件考案は、その詳細な説明欄に「図示例では上部濾材層10及び下部濾材層11の高さは、逆流洗浄の行われていない時の位置を示しており、濾材層膨張を伴う逆流洗浄と併用される場合には、各濾材表面の高さは図示の位置より上昇し、両アーム共濾材中で回転し、各濾材層の洗浄作用を有効的確に行いうるものである。」(前掲本件実用新案公報三欄一四行ないし二〇行)とある如く逆洗により濾材層が膨張することによつて洗浄水噴出アームが濾材層中で回転しうることになるとみるのが技術的常識に適い、これによつて濾材層の洗浄を行うものと解される。ところで、成立に争いのない甲第九号証(水道協会雑誌・昭和四七年八月号・藤田賢二・急速ろ過池における洗浄に関する諸元の水理学的考察)によれば、多層濾材槽のための濾材の採用にあたつては、共通の最適逆洗速度を有する濾材の組合せが一般によいとされていることから、理論的には、逆洗によつて各濾材が混合することも考えられるけれども、実際には、適切な逆洗速度の選択によつて上下濾材の混合がほとんどないことが窺われる。そして、本件考案が濾材層の洗浄後もその濾材層を再使用することを予定していることをも考えると、本件考案の濾層表面洗浄装置を適用した作動時においては、逆洗時に各濾材が混和され懸濁状態になつているものではなく、むしろ最適な逆洗速度の選択などによつて、各濾材の混和が生じない状態で洗浄が行われるものとみるのが、技術的にみて妥当である。この点、審決は、複層の濾材層で構成された濾過槽に用いるための各濾層表面洗浄装置に関しても、各濾材は混然一体となつてしまうと即断し、技術的にみても通常採用されないような状態で濾材層の洗浄を行う場合を想定したために、濾層の構成と濾層表面洗浄装置の構造とは、特に関連性があるものとすることはできない、という誤つた判断に至つたことが明らかである。

3  更に、原告は、本件考案と第一引用例との構成及び効果上の顕著な相違点を主張する。

すでに前1項において認定した如く、本件考案は、複数の濾材層のそれぞれに対応するように洗浄水噴出アームが配置されているものである。これに対し、成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例の濾過器は、単層濾材層の洗浄に係るものであるばかりでなく、洗浄水噴出アームの先端が螺旋状になるように濾材層中に設けられ、濾材をスクリユウ式に攪拌しながら濾材の洗浄を行うものであることが認められ、その装置は、前項で認定した如く複数の各濾材層について、濾材の懸濁によつても各濾材の混和を生ぜしめないようにして洗浄を行う本件考案の濾層表面洗浄装置とは、構成上も著しく相違する。したがつて、また、本件考案は、右の構成の相違によつて、前1項で認定したように第一引用例のものとは異なつた格別の効果を奏するものである。

さらに、成立に争いのない甲第三号証、第四号証によつて第二引用例及び第三引用例を検討しても、本件考案の右の如き構成及び効果についての示唆はない。

そうすると、審決は本件考案における構成上の重要な特徴及びこれによつて奏する効果の顕著さを看過したものといわねばならない。

4  審決には、前叙のとおり重要な判断の誤りがあり、これらの誤りは、本件考案について、第一引用例ないし第三引用例記載の事項から当業者が極めて容易に考案をすることができたものとしたその結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、審決は違法なものとして取消を免れない。

三  よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註その一〕本件登録実用新案に関する事項は左のとおりである。

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「濾層表面洗浄装置」とする実用新案登録第一一二六二九四号考案(昭和四五年一〇月二三日出願、昭和五一年四月三〇日設定登録)(以下「本件考案」という。)の権利者であるところ、被告は、昭和五四年三月一九日、右実用新案登録無効の審判を請求し、昭和五四年審判第二八三五号事件として審理された結果、昭和五五年九月二六日、「登録第一一二六二九四号実用新案の登録を無効とする。」との審決があり、その謄本は同年一〇月八日原告に送達された。

2  本件考案の実用新案登録請求の範囲

濾過池又は濾過槽内に、例えばアンスラサイト層と砂層との如き二層の濾材層若しくはそれ以上の複数層の濾材層を配備したものにおいて、表洗水流入管1に回転可能に連通連絡した回転軸管4に連結した接手管5に、上下方向に所要の間隔を置いて多段に洗浄水噴出アーム6、7を配備し、最上層10より下方の各濾材層11に対しても回転型の洗浄水噴出アーム7により所要の洗浄が行われるようになしたことを特徴とする濾層表面洗浄装置。(別紙図面(一)参照)。

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

図面(一)

<省略>

図面(二)

<省略>

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